深紅の帷（とばり）が揺れる玉座の間――。日本史に刻まれた「31番目の妃さま」とは、鎌倉幕府第8代将軍・久明親王（ひさあきらしんのう）の側室・藤原（ふじわら）貞子を指す通称です。当時の皇室文書『延慶両宮注進状』にのみ記される存在は、なぜ歴史の表舞台から消えたのでしょうか？

■「数字」が示す驚愕の事実
当時の親王后宮には通常10名程度の妃がいたとされますが、記録上31人目とされる貞子の存在は、鎌倉時代中期の政争を暗示します。北条得宗家の勢力拡大に伴い、皇族の婚姻が政治的交渉の道具として乱用されていた実態が、この数字から浮かび上がります。

■消された妃の役割
貞子が歴史書から抹消された背景には、持明院統と大覚寺統の皇統分裂問題が関係しています。1317年の文保和談で両統迭立が決定される過程で、不要となった「調整役」の妃たちが記録から除外されたのです。和歌の達人として知られた彼女の作品群さえ、現存していません。

■現代に響くメッセージ
2021年の皇室典範改正議論で再注目されるこの史実は、権力構造に翻弄される女性たちの姿を現代に映し出します。京都大学史料編纂所の最新研究では、赤外線撮影で原本の改竄痕跡を確認。被差別部落出身説もある貞子の実像解明が進んでいます。

玉座の陰で歴史を紡いだ31人目の妃の真実は、権力の力学が生み出す「不可視化」のメカニズムを問いかけます。彼女の存在が突きつけるのは、現代社会における「記録されない人々」へのまなざしではないでしょうか。